武士とは社会の支配層であるのと同時に職業軍人でもあります。古今東西、職業軍人たるものは日常であっても威厳が必要とされていました。それと同じように、武士も人目に触れやすい外出時には、それ相応のたたずまいが求められていました。特に二本の刀は、ただ差せばいい訳ではありませんでした。まず、脇差を前出しといって腹につけるように差します。角度も決まっており、水平に近い角度が良いとされていました。このとき柄の頭が右わき腹のあたりにくるのが理想的でありました。このあと長いほうの刀を脇差の上から鞘が重なるように差すのですが、あまり深く差しすぎないということに注意をする必要がありました。深く差しすぎて左手で鞘を握れない状態では、不意の襲撃を受けた際に、瞬時に刀の鯉口を切って抜刀することができず、思わぬ不覚をとってしまうからです。長いほうの刀が垂直の落とし差しになるのも要注意と言われていました。鞘を握って鯉口を切るまでに柄を握って前に傾けるという動作が入るため、一瞬時間を取られてしまい、やはり不覚をとることになってしまうからです。そのため、武士たちは歩いているうちに刀が垂直になるのを防ぐ必要がありました。その方法とは、懐紙の束を懐に入れたそうです。こうすることによって着衣が鍔に押されてくしゃくしゃにならないので、見た目的にも美しかったそうです。ただし、無職者たる浪人は長短のうち長いほうの刀のみを落とし差しにしていたと言われています。このように刀の身に着け方まで気を使っていた武士たちの精神は現在の日本人の特性にも生かされているのではないでしょうか。儀式での身だしなみのマナーがしっかりと決まっていたり、細やかなところまで、気を遣う精神などは、このような武士の精神から受け継がれているように感じとれます。武士の精神が現在でも尊重されているからこそ、武道が今でも残り、武術によって心身共に鍛錬している人が現在でも存在するのだと思います。