日本刀を鑑賞するときの専門用語に「地刃よく働く」という言葉があります。この言葉は、昔からは使われてなく、「心の働き」などのような意味合いで用いられたと思います。つまり、鑑賞する人が感情移入する言葉で、現代になって日本刀を鑑賞するときの専門用語にも発展したと考えられます。
昔の日本刀と新しい日本刀を見分けるとき、昔の日本刀は刃の中に働き、新しい日本刀は地に働くと言います。昔の日本刀は、刃文の縁から刃先にかけて、刃先に伸びた突起状の「足」と葉っぱのように独立した「葉」があります。また、「沸」も「匂」もあり、さまざまな模様が生まれます。新しい日本刀は、刃中の部分に変化は少なく、刀身を走る稜線である鎬へ向かって、「沸」が綺麗に広がって見られます。
「足」と「葉」がどのように出来るのか、それは鋼に含有されている炭素が不均一であり、また刃中が一定の温度で焼き入れされなかったために、均一にマルテンサイトにならず、鋼の組織であるマルテンサイトとトルスタイトが混ざり合って出来ているそうです。マルテンサイトの方がトルスタイトに比べ、硬度が高いので、力を入れて磨くと少しだけマルテンサイトが突起して、光に反射するため輝くのだそうです。新しい日本刀に「足」と「葉」があまり見られないのは、地鉄の質が向上して、均一になったと考えられます。
「働き」の中に「金筋・稲妻・砂流・地景」という言葉が存在します。金筋・稲妻・砂流は地中に現れ、地景は地肌に現れます。地鉄が不均一なので、働きが自然に入るそうです。
「働き」とは刀工が、鍛錬や焼き入れをすることによって、鉄が鉄の意志によって、自然に刃中や地肌の中に微妙な変化を作り出したように見させるものだと思います。その変化が人の心に躍動感や澄んだ味わいを感じさせるのだと思います。